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仲裁か、それとも、訴訟か ――企業はどのように賢明な争議解決方法を選べばよいのか―― (後編)

2024-10-24/ 弁護士コラム/ 李 霆輝

争議を解決する上で考慮しなければならない要素の一つ:専属的管轄

専属的管轄は中国の「民事訴訟法」における一つの重要な概念であり、これはいくつかの特定の類型の案件をただ特定の裁判所しか審理することができないことをいう。多国籍企業にとっては、専属的管轄規定に対する理解は、契約の条項における争議解決制度の合理的な設定と、争議に対する適切な法的解決の確保にも資することになる。

1. 専属的管轄と訴訟との関係性

中国における「民事訴訟法」の規定によると、特定の類型の案件にかかわる場合には、必ず専属的管轄権を有する裁判所がこれを審理しなければならない。これは例えば、不動産紛争をめぐって提起される訴訟は、不動産の所在地の裁判所がこれを管轄し、‌港湾作業において発生した紛争をめぐって提起される訴訟は、‌港湾の所在地の裁判所がこれを管轄する、というような例を挙げることができる。

専属的管轄は強制性と排他性を有しており、これにより中国の裁判所の専属的管轄に属する案件に対する中国国外の裁判所のいずれの管轄権も排除され、かつ、訴訟当事者間の合意の方法を通じた中国国内のその他の裁判所による管轄の選択、および法律上の一般的な地域における管轄や特別な地域における管轄に関する規定も排除される。

一定の程度においては専属的管轄の規定により、案件に対する関連法の専門的な知識を有する裁判所による処理が確保され、これにより案件処理上の専門性と効率性が向上し、異なる裁判所の間における管轄権の不明瞭性をめぐる争議の発生が回避されている。中国における「民事訴訟法」においては、合意を通じて非渉外・渉外民事訴訟に対する管轄を設定する場合には、一律に専属的管轄に違反することのできないことが明確に規定されている。

2. 専属的管轄と仲裁との関係性

確かに専属的管轄は訴訟においては極めて重要となるが、仲裁を選択した場合には、専属的管轄は一般的には役割を果たさない。これはなぜかと言うと、それは仲裁は契約中の仲裁条項に依存し、当事者の私的自治に属しており、裁判所の管轄権にはかかわらないからである。仲裁を争議解決方法とする旨が契約に明確に取り決められている場合には、仲裁条項は一般的には中国の「民事訴訟法」における裁判所の専属的管轄を対象とする規定に優先して適用されるものと一般的には理解されている。

これはもしも双方の当事者が契約において仲裁を規定しているのであれば、争議は仲裁を通じて解決され、一方の当事者が仲裁の有効性に対する異議の提起または裁決の執行を試みない限りにおいては、裁判所の手続には入らない(すなわち、仲裁をめぐる合意が無効となった場合には、これにかかわる裁判所が依然として専属的管轄権を有する)ことを意味している。このような手配によってより高い柔軟性が企業に提供されており、実際の必要性に応じて最も適切な争議解決方法を選択することができるようになっている。

3. 専属的管轄と越境争議

越境取引にとっては専属的管轄と仲裁条項の設定は極めて肝要となる。実務においては多くの企業が国際仲裁機構と適用法を契約に規定するよう選択しており、これにより異なる国の裁判所・法律同士の間における管轄権の対立が回避され、一定の程度においては、ある中立的な第三者による争議の解決が確保されている。

中国も「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(昭和36年条約第10号)(通称「ニューヨーク条約」)への加盟国であり、この条約においては国際的な仲裁裁決の承認と執行の仕組みが規定されている。これにより一つの有効な法的枠組みが多国籍企業に提供され、仲裁裁決の中国を含む多くの国における執行の可能性が確保されている。企業は越境取引においては仲裁条項の合理的な設定を通じて専属的管轄を有効に回避し、争議解決の効率性と透明性を向上させることができる。

仲裁条項を設定するに当たっては、以下の数点に注意を払った上で、これにより仲裁における唯一の仲裁機構の対象性を確保して仲裁条項の無効化を回避し、すなわち、仲裁機構・仲裁地点・適用法を明確にするとともに、仲裁言語、仲裁員の人数、仲裁費用の分担、仲裁裁決の効力、および仲裁の範囲も、可能な限り明確にしなければならない。仲裁機構の公式サイト上には往々にして例示的な条項が掲載されているので、それをもって当事者の参考の用途に供することができる。

どのように賢明な選択を行えばよいのか?

仲裁か、それとも訴訟かを選択するに当たって企業は争議の具体的な状況と業務上の必要性に応じて合理的な選択を行わなければならない。以下のいくつかの肝要な要素は企業が賢明な解決策を練る上での一助となり得る。

  1. 争議の性質・複雑性:複雑な法的問題または営業秘密にかかわる争議をめぐっては仲裁がより適切な選択となる可能性がある。なぜならば、仲裁によって秘密保持性と柔軟性が提供されるからである。もしも争議が比較的に明確な法的問題にかかわり、企業が幾層にも分かれた司法審査を通じて結果の公正性を確保するよう希望するのであれば、訴訟がより信頼に足る一つの選択肢となる可能性がある。

  2. 時間・コスト:仲裁手続は相対的に見ると効率的ではあるものの、費用が比較的に高い。訴訟手続は所要期間が比較的に長くなる可能性があるが、中国における訴訟費用は相対的に述べれば比較的に低い。企業は争議解決の切迫性と予算の状況に応じて実質的な必要性を最も満たし得る争議解決制度を選択しなければならない。

  3. 執行力・国際的環境:もしも争議が中国国内の資産にかかわるのであれば、訴訟の執行力がより有利となる可能性がある。一方、多くの国にかかわる越境争議をめぐっては仲裁の国際的な執行性がより有利となる。特に、「ニューヨーク条約」への加盟国間においては仲裁裁決の執行のほうが相対的に見るとより円滑である(当然のように、たとえ中国が同条約への締約国であったとしても、実務においては、中国国内において中国国外の仲裁裁決の承認と執行を申請するのは、依然として比較的に複雑である。)。

まとめ

仲裁を選択するのか、それとも訴訟を選択するのかにかかわらず、企業はいずれにせよ契約において争議解決条項を明確にしておき、これらの条項が企業の権益を有効に保護することができるよう確保しなければならない。中国において業務を展開されている日系企業の方々としては、実務の運営過程において、仲裁と訴訟の利点と欠点、および専属的管轄の法的規定を十分に理解し、越境争議を処理するに当たっては仲裁条項と適用法を合理的に設定した上で、これにより更に柔軟かつ有効な争議解決制度を企業に提供して自社の権益を十分に保護しなければならない。

企業は日中の言語、法律および商業的な文化に明るい弁護士との長期的な提携関係を確立し、弁護士からの協力を通して契約の起草段階において争議解決制度をめぐる十分な計画を遂行しておき、転ばぬ先の杖として、争議の発生時にはこれを迅速かつ効率的に処理し、争議による業務運営への影響を最大限に減少させ得るよう検討することができる。

(終)

 


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