国家衛生健康委員会等の14の政府機関は2024年5月17日、「2024年医薬品売買分野・医療サービス風紀秩序是正業務要点」(以下「風紀秩序是正業務要点」)を共同で公布した。その中においては医薬業界の生産・流通・販売・使用・経費精算等の段階に存在している突出した問題の指摘、コンプライアンス経営に向けた医薬品分野への各参加主体への指導と督促、および医薬品生産経営企業の行為を対象とするコンプライアンス指導の強化が行われており、2023年に公布された「2023年医薬品売買分野・医療サービス風紀秩序是正業務要点」に比べると、医薬品売買の分野における商業賄賂に対する管理の強度は継続的に引き上げられている。
2024年の3月以降、多くの省においては下表のとおり医薬企業を対象とする商業賄賂の防止に向けたコンプライアンス指導が立て続けに公布されている。各地における指導はいずれも行政上の強制的な効力を有しない一般的な指導にとどまってはいるものの、一定の程度においては法執行機構による法執行の傾向も体現されており、医薬業界の主体たる企業が商業賄賂の防止に向けたコンプライアンス管理業務を実施するに当たっての重要な参考価値を帯びている。
公布時期 | 公布元の 省(または地区) | 指導の名称 |
2024.3.7 | 河南省 | 「医薬品生産経営企業商業賄賂防止行政指導」 |
2024.3.18 | 四川省眉山市 | 「眉山市医薬企業・医療機構商業賄賂行為防止コンプライアンス指導(試行)(意見募集稿)」 |
2024.4.16 | 湖北省 | 「湖北省医薬企業商業賄賂行為防止コンプライアンス管理指導(試行)」 |
2024.5.16 | 黒龍江省 | 「医薬企業商業賄賂防止コンプライアンス指導(試行)」 |
2024.6.18 | 山西省 | 「医薬品生産経営企業商業賄賂防止コンプライアンス指導」 |
2024.6.21 | 福建省 | 「福建省市場監督管理局医薬品分野商業賄賂防止コンプライアンス指導」 |
2024.7.10 | 重慶市 | 「重慶市医薬品分野商業賄賂防止コンプライアンス指導」 |
2024.7.15 | 河北省 | 「河北省医薬企業商業賄賂防止コンプライアンス指導(試行)」 |
本稿においては、多くの地区においてこのところ公布されている医薬企業を対象とする商業賄賂の防止に向けた指導における要点の内容の整理を通じて医薬企業によるコンプライアンス体系の構築のための参考資料を提供するよう期せられている。
一、医薬品の分野における商業賄賂のよく見受けられる形態
現行の「反不正当競争法(2019改正)」の第七条によると、事業者が財物その他の手段を採用して次の各項の組織または個人に贈賄し、これにより取引の機会または競争上の優位性の獲得を企図する場合には、これは商業賄賂行為に属することになっている。
(一)取引相手の従業員
(二)取引相手からの委託を受けて関連事務を処理する組織または個人
(三)職権または影響力を利用して取引に影響を及ぼす組織または個人
ここで注意しなければならないのは、2022年11月22日に公布された「反不正当競争法」(改正案意見募集稿)(以下「意見募集稿」)においては取引相手も、贈賄対象の範ちゅうに含まれており(すなわち、現行法において規定されている「取引相手の従業員」から「取引相手またはその従業員」へと拡大されており)、同意見募集稿は今のところは審議を経て可決されてはいないものの、法執行強度の引上げのすう勢は依然として明確に示されている、という点である。
ところが、「反不正当競争法」において商業賄賂の基本的な枠組みが規定されているにもかかわらず、実践においては法網をくぐる行為は依然として横行し、商業賄賂の実務は活発に繰り広げられており、これが法執行の難度を高めているだけではなく、さらには企業における法令遵守の敷居も引き上げている。コンプライアンス業務の実践上、「ある行為が果たして商業賄賂に属しているのか否か」という問題をめぐる照会は、医薬企業から当所にも頻繁に寄せられている。
今年に入ってから多くの地域において公布されているコンプライアンス指導においては、医薬品の分野における商業賄賂の具体的な状況の明確化を通じてコンプライアンス体制の構築に向けた構想が提供されており、これらは非常に高い参考価値を有している。中でも重慶市において公布された指導は、全国で初となる医薬品の全分野にかかわる商業賄賂の防止に向けたコンプライアンス指導として、その規定内容は比較的に全面的となっている。重慶市における指導を基礎とし、その他の地区における指導の内容も踏まえた上で、医薬品の分野における商業賄賂の発生段階においてよく見受けられる形式と、医薬企業が注意しなければならない要点に対する整理を以下のとおり行う。
(一) 直接的かつ物質的な利益の輸送の形式
1. 贈答品・エンターテイメント活動
これは例えば、贈答品の贈答または旅行・飲食・エンターテイメント活動の手配を通じた医療機構またはその内設の部署や従業員への不当な利益の供与などを挙げることができる。
2. 協賛・寄附
これは例えば、協賛または寄附の方法を通じた医療機構またはその内設の部署や従業員への不当な利益の供与などを挙げることができる。
その他の形式に比べると、直接的かつ物質的な利益の輸送は比較的に容易に認識される商業賄賂の形式ではあるが、方法が簡単であり、かつ、効果も直接的であることから、依然として多くの企業がこのようなリスクを冒している。2024年6月に上海市長寧区の市場監督管理局が取り締まった上海市のある医療投資会社の商業賄賂案件において、血液浄化類の医療消耗品を経営するある会社は、関係性の維持管理と業務の開拓を目的として2050元を支出してロールアップバナーとチラシを製作し、これらを病院に供した上で使用させていた。このほかにも2023年の元旦には2500元の現金を祝日祝い金として病院の血液透析センターの主任に贈与していた。事件の発覚後において、同社は「反不正当競争法」第七条第一項第(三)号の規定への違反が認定され、20万元の過料が科せられている。
実務においては、金額の低いわずかな恩恵であれば商業賄賂に該当することはなく、新年や祭日にいくらかの気持ちを表したとしても物事の主要な局面には何らの差し障りも生じることはあるまい、と考える企業は経常的に存在している。本件における商業賄賂の金額はわずか4000元あまりであったが、依然として重罰を受けている。重慶市のコンプライアンス指導においても、「行為の真実性・合理性・合法性が審査の重点となり、贈答品・協賛・寄附その他これにかかわる活動プロジェクトの内容・価値・対象・期間・回数・流れ、商業的な販売との関連性の有無、排他性の有無などの面から審査が行われる」という旨が明確にされている。この点からも明らかなとおり、金額は審査の唯一の重点ではなく、前述の事例のとおり「祝日祝い金」や「協賛・宣伝」等を供与する行為はその贈答目的と贈答対象から見てみると、典型的な商業賄賂行為に明らかに属しており、たとえ金額が高くはなかったとしても、処罰を逃れることは依然として難しい。
(二) 名目を借用する形態
名目の借用とは、合法的な活動の外観を装った商業賄賂行為への従事をいい、よく見受けられる名目としては、例えば次のような例を挙げることができる。
1. 販売費用、プロモーション費用などの種々の名目または形式を借りた関連費用の精算
2. コミッション支払の名目を借りた不当な利益の供与
3. 学術活動、科学研究提携、学術サポートなどの実施の名目を借りた不当な利益の供与
4. 区画賃貸借の名目を借りた賃貸借収益と、医療衛生機構における診療活動との間における関連付け
名目借用の認定についてもコンプライアンス指導においては、行為の真実性・合理性・合法性に着眼した上で「名目の活動」そのものの事実に即した存在の有無、費用の市場における規律への適否、実施方法の合理性、実施頻度の過度な高低、手配される地点の妥当性(例えば景勝地やゴルフ場等への手配の有無)、参加者と主催者との間における関係性(例えば現在のまたは潜在的な取引対象への該非)などを重点として判断が行われる、という旨が規定されている。
実践において、企業コンプライアンス体系を構築するに当たって「合理性」の定義に対する疑問を抱く医薬企業は経常的に存在している。例えば、よく見受けられる講義費用価格の設定をめぐっては、社会においても種々のいわゆる「内部参考」資料が多く存在しており、価格設定基準として広まってはいるものの、法執行のすう勢から見てみると、一つの「絶対に安全」かつ「完ぺきな価格」というのは存在していない可能性がある。一つの事例を見てみると、上海市市場監督管理局が2023年5月に取り締まった「講義費用」の名目をもって行われたある商業賄賂の案件において、当事会社は2019年11月から2022年10月までの期間中、病院内部の区画における例会実施の名目をもって、同社の薬品を使用する院内のある医者に14件の「講義費用」を支払っており、その金額は一件当たり1000元から2000元までとまちまちであった。事件の発覚後において、同社は90万元の過料に処せられている。実際のところ、多くの公立病院は「風紀秩序是正業務要点」の公布前から類似のコンプライアンス管理要求に基づいて相応の内部管理規範を既に制定していた。これらの規範には「医者が学術交流を行うに当たっては必ず院内における届出と承認審査を事前に行わなければならず、報酬金額の合理性の有無にかかわらず、いずれの形式の報酬も自ら受け取ることができない」という旨が明確に規定されている。
この現象には二つのすう勢が反映されている。そのうちの一つは「講義費用をもって利益輸送の合法的な外観とする余地は次第に狭まってきている」という傾向であり、もう一つは「行政法執行上の要求は絶え間なく引き上げられている」という傾向である。このような新たな動向は当面の医薬品の分野において腐敗防止が厳重に取り締まられている形勢の下においては、業界内における強い関心に値し、コンプライアンス体系を既に制定している一部の医薬企業も、コンプライアンス体系に対する速やかな細分化と調整を行う必要がある。
(後編に続く)