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多国籍企業の視点から見た直近の中国国務院の反制裁関係新法2件 その1:「産業チェーン・サプライチェーンの安全保障に関する国務院の規定」の重要条項の解説

2026-04-30/ 弁護士コラム/ 弁護士 楊諾

近年、世界の技術競争は一層激化している。「ロングアーム管轄」や一方的制裁などによる多国籍企業のサプライチェーンへのインパクトがますます増大している。2026年4月、中国では反制裁に関する二つの重要な行政法規(日本の政令に相当するもの)が相次いで公布され、社会の広い関心を集めた。そのうち、一つは「産業チェーン・サプライチェーンの安全保障に関する国務院の規定」[1](国務院令第834号、以下「規定」という)、もう一つは「中華人民共和国反外国不当域外管轄条例」[2](国務院令第835号、以下「条例」という)である。両法規の策定は、中国がサプライチェーンの安全保障および「ロングアーム管轄」対抗の分野において、「識別―遮断―対抗―救済」からなる一貫した制度設計が構築され、中国における多国籍企業の事業活動に深い影響を与えると見られている。

本シリーズでは、多国籍企業の実務の視点から、両法規の重要条項および協同のロジックを詳細に分析し、重要なリスクを特定するとともに、実行可能なコンプライアンス対応策を検討する。本稿は本シリーズの第1弾として、両法規の背景を整理したう上で、「産業チェーン・サプライチェーンの安全保障に関する国務院の規定」の重要条項を解説する。

一、立法の背景と制度のロジック

「規定」は2026年4月7日に公布され、全18条から構成される。中国における産業チェーン・サプライチェーンの安全保障分野の初の専門法である。中国司法部の公式サイトに掲載された報道官談話[3]によれば、現行の法令は応急保障、輸出規制、対抗措置などの分野には一定の立法が存在するものの、サプライチェーンの安全保障に特化した立法はこれまで欠如していた。中国国内外のリスクに有効に対応し、サプライチェーンの安定と円滑な運行を確保するためには、この立法上の空白を補い、法治による保障をさらに強化する必要があると説明された。

「条例」はこれに続き、2026年4月13日に公布され、全19条から構成される。司法部公式サイトの報道官談話[4]を踏まえると、「条例」の策定は主に、現在の国際情勢、国内立法の需要および国家の政策など複数の要因に基づくものである。全体としては、外国による不当な域外管轄への対応、立法上の空白の補完、国家の核心的利益の維持を中心に据えている。

制度の発展の過程から見ると、「規定」と「条例」の制定は重要な体系的意義を有する。これまで中国は、「反外国制裁法」を中核とした外国の不当な措置に対応する法的枠組みを徐々に構築してきた。これには「〈中華人民共和国反外国制裁法〉実施規定」(国務院令第803号)、「外国の法律および措置の不当な域外適用を遮断する弁法」(商務部令2021年第1号)、「信頼できないエンティティリスト規定」(商務部令2020年第4号)などが含まれる。しかし、司法部が公表した専門家解説にて指摘されているように、「現行法令は外国制裁への対応および対抗措置の実施について一定の規則を設けているが、主として経済貿易分野に集中しており、より広範な分野における外国の不当な域外管轄措置に対しては、的確な対抗手段および阻断ツールが不足している。」[5]法体系的に、「規定」と「条例」は行政法規として制定され、「国家安全法」「対外関係法」「反外国制裁法」などの上位法に基づき、従来の部門規章の(日本の省令に相当するもの)法的位階の低さや「反外国制裁法」の運用細則の不足という制度上の空白を補完するものである。これらは既存の立法の原則を継承するとともに、制度面での具体化と補完を行い、中国の反「ロングアーム管轄」制度が「原則的な宣言」から「手続的法治」へと転換したことを示す。

「規定」と「条例」はいずれも渉外安全保障に関する法体系に属するが、その役割はそれぞれ異なり、互いに補い合う。「規定」は、中国のサプライチェーンの安全保障に害する差別的行為および情報収集活動の規制に重点を置き、中国サプライチェーンへの「直接的侵害」の防止および対策を目的とする。一方、「条例」は外国による不当な域外管轄措置そのものの規制に重点を置き、源流の段階からその拘束力が中国の主体に及ぶことを遮断するとともに、この種の措置の実施の推進者を規制する。両者は規制手段の面で連携が取れており、すなわち、サプライチェーン情報の保護、供給停止に対する調査、悪意のあるエンティティリスト制度の導入、対等的な報復措置、執行禁止令および免除制度などを通じて、受動的防御から能動的対抗までを含む全過程をカバーする。かかる両法規に如何に対応するかは、中国における多国籍企業にとっての新たなコンプライアンス上の課題となる。

二、「規定」の核心条項の分析

(一)第7—12条:重要分野リスト制度と安全保障フレームワーク

「規定」の制度上の中核は、第7条により確立された重要分野リスト制度にある。当該リストは国務院関係省庁が策定し、動的に調整されるものであり、「重要分野における原材料、技術、設備、製品等の生産および流通の安定と持続的運行」の維持を目的とする。重要分野をめぐり、「規定」は四つの保障制度を構築している。すなわち、第8条の情報共有メカニズム(「データ安全を確保するための有効な措置を講じる」ことを要求)、第9条のリスク監視・早期警戒制度(企業はサプライチェーン安全に影響を及ぼす状況を発見した場合、政府部門に報告可能)、第10条のリスク防止制度(実物備蓄および能力備蓄を含む)、第11条の緊急対応管理制度(企業は緊急対応措置の実施に協力しなければならない)である。

多国籍企業にとって、重要分野リストは中国における事業配置に直接影響する。仮に所属業種がリストの対象に指定された場合、サプライチェーン情報の収集、国外へのデータ共有、サプライヤー変更などの行為は、当局からより厳しい管理を受けることとなる。企業はリストの動向を継続的に把握し、中国現地法人が属する産業の位置付けを事前に評価する必要がある。

(二)第13条:サプライチェーンの情報収集に関する「警戒ライン」

「規定」第13条には、「いかなる組織および個人も、中国の法律、行政法規、部門規章および国の関連規定に違反して、中国国内において産業チェーンサプライチェーンに関する調査等の情報収集活動を行った場合、関係部門は法に基づき相応の処理措置を講じる」と明記されている。司法部からの説明によれば、本条が「実務上の問題に対応するための情報安全保障措置」として位置付けられている。

条文の性質として、第13条は禁止の義務を新設するものではない。「中国の法律、行政法規、部門規章および国の関連規定への違反」を前提条件とし、宣示的かつ引用的な条項としての性格が強い。主な目的は、サプライチェーン情報収集を国家安全保障の規制の対象に明確に組み込み、関係省庁に対し直接的な法的根拠を提供する点にある。ただし、「調査等の情報収集活動」という表現は極めて広範であり、具体的形式の限定がない点に留意が必要である。このため、中国国外の主体またはその委託先が中国国内で実施するサプライチェーン・デューデリジェンス、透明性評価、技術供給分析等も規制対象に含まれる可能性があり、「データセキュリティ法」や「反スパイ法」などとの制度的連携が想定される。

「規定」第13条は具体的な「重点データリスト」の中身を直接示していないが、司法部の説明および他条文を踏まえると、「緊急性の高い分野を優先する」方針の下、「経済社会の安定および国家安全保障に関わる重要分野のデータに焦点を当てる」こととなると考えられる。「規定」の他の条項を踏まえ、中国当局にとって、違法な収集・入手をされないよう、重要保護対象とするデータは、重要分野における以下の種類が想定される。

1)重要分野に関する原材料、技術、設備、製品等の研究開発データ、進捗、技術パラメータ、核心技術およびその開発状況

2)重要分野の原材料、技術、設備、製品等の供給ルートの安定性、在庫量、生産能力、物流配置および運行状況

3)サプライチェーンの川上・川下企業の分布、依存関係、代替手段等の構造を示すデータ

4)重要分野において、業界間または企業間で共有されているが、未公開のサプライチェーン情報

5)政府および企業が未公表の供給断絶リスク評価、安全リスク警戒情報、緊急対応計画および緊急対策

6)その他、重要分野に関連する高重要度のサプライチェーンデータ

他にも、「工業分野重要データ識別ガイドライン」(YD/T 4981-2024)および「データセキュリティ技術 データ分類分級規則」(GB/T 43697-2024)附録Gなど、重要データの識別の国家標準において、業界の発展に関連する重要データとされる分類も、重要な参考資料として活用できると考えられる。

(三)第14-16条:差別的供給遮断への対抗およびサプライチェーン救済

第14条および第15条は対抗措置に焦点を当てており、それぞれ「外国国家による差別的禁止措置」および「外国企業による差別的供給停止行為」を対象とする。

第14条第1項は、「外国の国家、地域または国際組織が国際法および国際関係の基本原則に違反し、産業チェーンサプライチェーンの分野において中国に対し差別的な禁止、制限または類似措置を講じ、中国のサプライチェーン安全保障を損なう行為を実施または支援した場合、国務院関係省庁は当該措置または行為について産業チェーンサプライチェーンの安全保障調査を行う権限を有する」と規定する。調査後は、「貨物技術の輸出入または国際サービス貿易の禁止制限、特別費用の徴収等を含むがこれに限られない」という措置を講じることができ、「反外国制裁法」に基づき、関連措置の制定・決定・実施に関与した主体を報復リストに掲載することも可能である。

第15条第1項はさらに、「外国の組織または個人が正常な市場取引原則に違反し、中国の公民または組織との正常な取引を中断し、差別的措置を講じ、またはその他の行為により、中国のサプライチェーン安全保障に実質的損害またはそのおそれを生じさせた場合、国務院関係省庁は産業チェーンサプライチェーンの安全保障調査を行うことができる」と規定する。同第3項は、規制対象を「当該外国主体が実質的に支配または設立運営に関与した組織」にまで拡張し、いわゆる「ルックスルー規制」を構成する。これは、中国に設立された外資独資企業や合弁会社について、中国国外の親会社に中国のサプライチェーン安全保障を害する行為があった場合、当該親会社の実質支配下にあるとして連帯的に制裁対象となる可能性があることを意味する。

第16条は、中国国内の組織および個人に対する協力義務を規定し、違反した場合には是正命令、政府調達への参加禁止、データ越境移転の制限、責任者の出入国制限等の措置が科される。

これら条項の主たる発動要件は三つある。第一に、正常な市場取引原則への違反(品質・価格・履行違反等の商業的理由によらない取引中止)。第二に、差別的措置の存在(中国サプライヤーの排除)。第三に、中国のサプライチェーン安全保障に対する実質的損害またはそのおそれであること。これらの要件が満たされる場合、外国企業およびその中国現地法人は、調査および制裁のリスクに直面するため、多国籍企業にとっては特に留意が必要である。

以上では、両法規の背景及びそのうちの「産業チェーン・サプライチェーンの安全保障に関する国務院の規定」の重要条項を整理した。次回は、「中華人民共和国反外国不当域外管轄条例」についても解説した上で、多国籍企業の対応策について提言する予定である。

(次回に続く)


[1] https://www.gov.cn/zhengce/content/202604/content_7064837.htm

[2] https://www.gov.cn/zhengce/content/202604/content_7065398.htm

[3]https://www.moj.gov.cn/pub/sfbgw/zcjd/202604/t20260407_533568.html

[4]https://www.gov.cn/zhengce/202604/content_7065472.htm?f_link_type=f_linkinlinenote&flow_extra=eyJkb2NfaWQiOiJiYjU3MDJlYjg3N2QxZTI4LTExZmI4NWJkYWZmNjU0ZWQiLCJpbmxpbmVfZGlzcGxheV9wb3NpdGlvbiI6MCwiZG9jX3Bvc2l0aW9uIjowfQ%3D%3D

[5] https://www.moj.gov.cn/pub/sfbgw/zcjd/202604/t20260413_533753.html


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