近年、世界の技術競争は一層激化している。「ロングアーム管轄」や一方的制裁などによる多国籍企業のサプライチェーンへのインパクトがますます増大している。2026年4月、中国では反制裁に関する二つの重要な行政法規(日本の政令に相当するもの)が相次いで公布され、社会の広い関心を集めた。そのうち、一つは「産業チェーン・サプライチェーンの安全保障に関する国務院の規定」[1](国務院令第834号、以下「規定」という)、もう一つは「中華人民共和国反外国不当域外管轄条例」[2](国務院令第835号、以下「条例」という)である。両法規の策定は、中国がサプライチェーンの安全保障および「ロングアーム管轄」対抗の分野において、「識別―遮断―対抗―救済」からなる一貫した制度設計が構築され、中国における多国籍企業の事業活動に深い影響を与えると見られている。
本シリーズでは、多国籍企業の実務の視点から、両法規の重要条項および協同のロジックを詳細に分析し、重要なリスクを特定するとともに、実行可能なコンプライアンス対応策を検討する。本稿は本シリーズの第2弾として、「中華人民共和国反外国不当域外管轄条例」の重要条項を解説した上で、多国籍企業の対応策について提言する予定である。
一、「条例」の核心条項の分析
(一)第4条:中国の域外管轄権の宣示と「適切な関連」基準
「条例」第4条は、中国政府が「中国と適切な関連性を有する行為」に対して域外管轄措置を講じる権限を有することを規定する。中国に生産拠点、研究開発センター、販売ネットワークを有する多国籍企業にとって、そのグローバルな事業活動はほぼ不可避的に中国との「適切な関連性」を有する。例えば、製品またはサービスが中国の原材料・技術に関係する場合、取引当事者の一方が中国のエンティティである場合、取引の対象物または関連データが中国国内に位置する場合、または当該取引が中国市場や中国のサプライチェーンに実質的影響を与える場合などが挙げられる。これらはいずれも中国政府による管轄権主張の発動要件となり得る。
同条第2項は、外国国家が中国の管轄権の対象である同一の行為について管轄権を主張する場合、国際法および国際関係の基本原則を遵守する前提で、「条約の締結、外交ルートまたは管轄当局間の協議等を通じて解決する」と規定する。これは、中国と米国、日本などが同一の行為について管轄権を競合的に主張する場合、外交または管轄当局の協議により解決することを意味し、多国籍企業が複数法域の法的衝突に直面する場合の一定の緩衝の余地を提供する。ただし、協議が成立するまでの間、企業は中国法および本「条例」に従う必要があり、中国法に違反するおそれのある外国の指令を独自に実行してはならない。総じて、第4条は宣示的意義が強いとはいえ、後続の第6条(識別基準)および第8条(悪意のあるエンティティリスト)等の制度適用の原則的根拠を提供する。
(二)第6条:不当な域外管轄措置の識別メカニズムと実行禁止義務
「条例」第6条は、不当な域外管轄の識別メカニズムを中心とする。条文によれば、国務院の法治担当省庁は関係機関と共同で識別業務を実施し、その過程において調査や協議を行うことができる。また、いかなる組織および個人も、国務院の法治担当省庁または関係機関に対して識別の提案を行う権利を有する。さらに、本条は識別における判断基準を明確にしている。すなわち、①当該域外管轄措置が国際法および国際関係の基本原則への違反の有無、②当該措置と当該外国との間の適切な関連性の有無、③当該措置が中国の主権、安全および発展利益への危害の有無、中国の国民・組織の合法的権益への侵害の有無、④その他考慮すべき要素、である。識別の結果、不当な域外管轄措置と認定された場合、国務院法治担当省庁は関係機関とともにこれを公告することができる。
本条は「条例」の最も重要な条項の一つであり、中国が外国の不当な域外管轄措置を識別し対処するための手続的枠組みを構築するものである。四つの判断要素は、当該措置の「不当性」を総合的に評価する基準であり、いわゆる「ロングアーム管轄」の判断とも整合する。特に第②項の「当該行為と外国との間の関連の適切性」は、一部の国による内国法の過度な域外適用を直接的に問題視するものである。例えば、特定の国の輸出管理規則を外国主体に適用する場合、その適切性は、同国の主体、同国由来の技術や成分が当該取引における関与度等を総合的に考慮し、当該管轄主張が合理的範囲を超えるか否かにより判断される。
さらに、本条は阻断措置および免除制度を確立している。特定の外国措置が不当な域外管轄と認定された場合、国務院法治担当省庁は公告を発し、いかなる組織および個人も当該措置を実行またはその実行を支援してはならないよう命令することができる。他方、同条では免除のルートも設けられており、やむを得ず実行する必要がある場合には、国務院法治担当省庁に申請し、承認を得た範囲内で実行することができる。この免除制度は条例の柔軟性を確保し、企業に対して一定の救済手段を提供する。
(三)第8条:悪意のあるエンティティリスト制度
「条例」第8条は、同条例において最も強力な制裁手段である悪意のあるエンティティリスト制度を設定した。すなわち、国務院の関係省庁は、「外国の不当な域外管轄措置の実施を進め、または実施に関与した外国の組織および個人を悪意のあるエンティティリストに掲載することができる」上で、「反外国制裁法」等に基づき報復措置および制限措置を講じることができる。既存の「信頼できないエンティティリスト」が主として中国の国家安全保障及びサプライチェーンの安全保障を害する主体を対象とするのに対し、悪意のあるエンティティリストは専ら不当な域外管轄措置の実施の推進者または実施の関与者を対象としており、これが両リストの違いである。
本条に列挙される報復措置は9種類に及び、その範囲は極めて広い。人的移動の制限(査証、入国、出国)、財産の凍結(各種財産の差押え、押収、凍結)、貿易制限(輸出入の禁止、投資の禁止、取引・協力の禁止)から過料まで、多層的な制裁体系を形成する。特に注目すべきは、第(四)号において「中国国内の組織および個人によるデータ・個人情報の提供、ならびに関連取引・協力の禁止または制限」が報復措置の一種として明示されている点である。これは、リスト掲載主体が中国国内のデータ資源にアクセスできなくなる可能性を意味し、中国市場のデータに依存する企業に重大な影響を与える。
特に要注意な点として、第8条第3項は制裁の貫通性を明確に規定した。すなわち、「前項に定める措置は、悪意のあるエンティティリストに掲載された組織・個人が実質的に支配し、または設立・運営に関与した組織にも適用され得る」という内容である。この規定は、「規定」第15条第3項および「反外国制裁法」第5条第(四)号の趣旨を踏襲している。したがって、外国の企業が悪意のあるエンティティリストに掲載された場合、その中国国内外の合弁会社、完全子会社、駐在員事務所等についても、「実質的支配または設立・運営への関与」が認定されれば、同様の報復措置が連帯的に適用される可能性がある。
(四)第13条:実行禁止令制度
「条例」第13条が創設した実行禁止令制度は、強い直接な効果を有する条項である。外国の不当な域外管轄措置を実行またはその実行を支援した組織および個人に対し、国務院法治担当省庁は直接に実行禁止の決定を行うことができる。すなわち、仮に外国の政府機関が中国企業に不利な措置を打ち出した場合であっても、当該措置が「不当な域外管轄」に該当すると認定されれば、中国国内のいかなる組織および個人もその実行を行ってはならない。これに違反した場合、行政処罰のみならず刑事責任を問われる可能性がある。
二、多国籍企業の主要リスクとコンプライアンス上の課題
産業チェーン・サプライチェーンの安全保障に関する国務院の規定」、「反外国不当域外管轄条例」の施行により、多国籍企業は多層的なコンプライアンス上の課題に直面する。主なリスクのシーンを以下整理する。
リスク一:二重コンプライアンス衝突の激化。外国の輸出管理規則、各種制裁措置等は、中国の「規定」および「条例」と直接衝突する可能性がある。多国籍企業は「外国法の強制力」を理由として中国法上の責任を無条件で免れることはできない。仮に多国籍企業が他国の一方的制裁や強制命令を受け、中国サプライヤーへの支払の遅延、受領拒否、契約終了などを講じる場合は、中国法上のリスクを同時に検討する必要がある。
リスク二:グループ企業の貫通的連帯責任。中国における外資独資企業、合弁会社、代表処等は、国外の親会社による「実質的支配または設立・運営への関与」の対象として認定される場合、連帯して中国の制裁対象となる可能性がある。
リスク三:データ越境移転に対する二重規制。国外の親会社が、中国現地法人に対して、中国制裁の対象やセンシティブな業界に関するサプライチェーンのデータ、取引記録、技術情報等の提供を要求する場合、既存の中国「データセキュリティ法」および「個人情報保護法」の一般要件に加え、「規定」第13条および「条例」第8条第(四)号の特別規制にも注意が必要である。特に、「条例」第8条により、悪意のあるエンティティリストに掲載された者へのデータ提供は禁止される可能性がある。
リスク四:サプライチェーン情報収集とデューデリジェンスのコンプラインスリスク。多国籍企業が母国のコンプライアンス要請や顧客監査に対応するために、中国サプライヤーに関する情報を体系的に収集・整理する行為は、中国の関係法令に従う必要があり、さもなければ、中国当局により「産業チェーン・サプライチェーンに関する調査等の情報収集活動」と認定される可能性がある。その結果、「規定」第13条の適用対象となる。
リスク五:悪意のあるエンティティリスト及び実行禁止令の厳しい罰則。「条例」第8条の悪意のあるエンティティリストに掲載された場合、または第13条の実行禁止命令に違反した場合、企業の中国における投資、取引、協力、データ取得はいずれも実質的に遮断される可能性があり、また、役員の中国入国および滞在資格も制限され、中国における生産運営、技術開発、市場開拓は全面的に阻害され、ブランドバリューやビジネス関係にも重大な影響が及ぶ可能性がある。
三、多国籍企業の対応戦略
複雑化・厳格化する二重規制体系に対応するため、多国籍企業は制度レベルで包括的なコンプライアンス枠組みを構築する必要がある。具体的、以下のとおり提言する。
第一に、中国におけるサプライチェーンのコンプライアンス体制を再点検し、サプライチェーン構造を整理する。内部評価メカニズムを構築し、中国関係当局が策定する産業チェーン・サプライチェーンの重要分野リスク、不当域外管轄措置リストを継続的にフォローすることを通じて、中国における事業運営が中国法規に適合するよう確保する。特に、仮に外国法と中国法の衝突が起きた場合、中国法の専門意見を速やかに取得するよう推奨する。必要に応じて、「条例」第6条に基づき免除申請を検討する。
第二に、情報収集およびデータ越境移転を慎重に管理する。国外の親会社が制裁対象者に関するデータ提供を要求する場合、中国子会社はデータ提供の前に、データ移転の適法性および潜在リスクを全面的に評価する必要がある。
第三に、グローバル統合型のコンプライアンス報告および緊急対応体制を整備する。特定の地域における個別の取引が、表面的にはローカルな法的問題であっても、グローバルな法的問題に発展する可能性があることを認識する必要がある。内部報告体制を整備し、各地域の業務における各国の法律のの潜在的衝突を本社コンプライアンス部署が迅速に把握し、適時に対応できるようにする。
最後に、今後の実施細則およびリストの動向を継続的に注視する。「規定」および「条例」は原則的規定が多く、今後、国務院の関係省庁が具体的な実施細則や運用ガイドラインを制定する可能性がある。これらの動向を持続的にウォッチし、コンプライアンス戦略を適時に調整する必要がある。
今般の「規定」と「条例」からの示唆として、中国で事業を行う多国籍企業にとっては、中国の新規制をグローバルコンプライアンス体制に組み込み、中国の対抗・阻断に関する法的ロジックを正確に理解することが不可欠である。これにより、複雑化する国際環境の中で安定的な経営を実現することが可能となると言えよう。
[1] https://www.gov.cn/zhengce/content/202604/content_7064837.htm
[2] https://www.gov.cn/zhengce/content/202604/content_7065398.htm