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中国「不正競争防止法(2025年改正)」から見る 「広告文に現れない検索キーワード設定」に対する規制の動向とコンプライアンス対応

2025-10-31/ 弁護士コラム/ 邵暁琳

中国では、電子商取引業界における競争の激化につれて、より多くの取引先の注目を引き付け、より多くの取引機会を得るために、高い知名度を持つライバルの商号または商標などを検索エンジンの検索キーワードとして設定する企業が増えています。その狙いは、消費者が特定のキーワードを検索した際に、キーワードを設定した事業者のリンクまた製品を検索結果の上位に表示させることにあります。

キーワードの設定方法には、広告文に「現れる設定」と「現れない設定」の二種類があります。「広告文に現れる設定」とは、他人の商業標識を、バックエンドのキーワードとして設定するだけでなく、フロントエンドの検索結果(広告文)の一部としても表示することを指します。例えば、A社の商標「X」を検索するときに、商標「X」を付したB社の製品が検索結果の上位(広告文)に出るような設定方法です。この手法は他人の商業標識を直接表示し、消費者の混同を招きやすいため、商標権侵害行為または不正競争行為に該当するという見方が一般的です。

他方、「広告文に現れない設定」とは、他人の商業標識を、バックエンドでキーワードとして設定するが、フロントエンドの検索結果(広告文)には表示しないことを指します。例えば、A社の商標「X」を検索するときに、B社の製品が検索結果の上位(広告文)には出ますが、B社製品の広告文内容には商標「X」の記載が一切含まれない、という設定方法です。この手法は商標権侵害行為には該当しないとされていますが、不正競争行為への該否については、長年にわたり見解が分かれていました。

これに関して、2025年の中国「不正競争防止法」改正にともない、混同行為の規制範囲が拡大され、検索キーワードの設定における、「他人の商品である又は他人と特定の関連性があるとの誤認を生じさせる」ことも混同行為に該当すると明文化されました。これは「広告文に現れない検索キーワード設定」の適否に関して、司法実務と企業のコンプライアンス履践にとって明確な指針となります。本稿では、同法の改正内容など、「広告文に現れない検索キーワード設定」に対する規制の動向と対応について解説します。

一、立法沿革

中国における「広告文に現れないキーワード設定」への法規制は、地方性法規から全国レベルの司法解釈、部門規則を経て、法律へと段階的に整備されてきました。

1. 地方性法規

2020年に改正された「上海市不正競争防止条例」は、地方レベルの法規として、「他人に一定の影響力のある識別標識をキーワード検索に関連付ける」などの混同行為の実施を助長する行為を明確に規制しました。

2. 司法解釈

2022年の「『中華人民共和国不正競争防止法』の適用における若干の問題関する最高人民法院の解釈」第一条は、事業者が市場競争の秩序をかく乱し、他の事業者又は消費者の合法的な権益を害し、かつ不正競争防止法第二章及び特許法、商標法、著作権法等の規定に違反する状況以外の情状に該当する場合においても、裁判所は不正競争防止法第二条を適用して認定を行うことができると定めています。これにより、他に個別な法的根拠がない場合に、一般規定(「不正競争防止法」第二条)がこのような不正競争行為を規制するための法的根拠になります。また、規制の対象も前述の地方性法規における「助長行為」から、行為を実施する主体そのものへと拡大されました。

3. 部門規則(日本の省令に相当)

20245月に国家市場監督管理総局が公布した「オンライン不正競争防止暫定規定」第七条第二項は、部門規則として初めて、「他人の一定の影響力を有する商業標識を検索キーワードとして無断で設定」し、かつ消費者を誤認させるに足る行為を、混同行為と定義づけました。

4. 法律

2025年に改正された「不正競争防止法」第七条第二項は、「他人の商品名、企業名(略称、屋号等を含む)、登録商標、未登録の著名商標等を検索キーワードとして設定し、他人の商品である又は他人と特定の関連性があるとの誤認を生じさせる場合には、前項に定める混同行為に該当する」と規定しました。この規定は、「ネットワーク不正競争防止暫定規定」を基礎に、保護対象となる商業標識の類型をさらに列挙し、保護範囲を一層明確化しました。

二、司法実務における問題

審理に当たり、中国裁判所は通常、「個別規定(第七条)が先、一般規定(第二条)が後」という考え方を採用します。すなわち、まず混同行為に該当するかを判断し、混同を生じさせた場合には直接混同行為規定を適用します。次に、たとえ混同を生じさせていないとしても、信義則に深刻に反し、競争秩序を乱した場合には、第二条の一般規定に違反するかどうかを検討する、ということです。しかし、今までの司法実務では、このような同じ考え方に沿っても異なる結論に至る場合があります。

例えば、(2020)滬0115民初3814号事件において、上海市浦東新区人民法院は、「本件被告は、検索エンジンのバックエンドにおいて原告の商業標識をキーワードとして設定したのみであり、フロントエンドにおいて原告のいかなる情報も商業標識としてその広告リンクのタイトル、説明文またはそのウェブサイトページにおいて公衆に展示していない。『広告文に現れないキーワード設定』は当該商業標識の識別性を破壞しておらず、関連公衆の混同を招くものではないため、不正競争防止法が規定する商業混同などの類型化された不正競争行為には該当しない。同時に、この種の使用形態は、事業者利益、消費者利益及び公共利益からなる「三重の法益」に実質的な損害を与えておらず、信義則と商業道徳にも違反しておらず、もはや不正競争防止法の一般規定(『不正競争防止法』第二条)を適用して規制すべきではない」と判断しました。

他方で、(2022)最高法民再131号事件において、最高人民法院は、「事業者が検索広告のキーワードを設定して上位に表示することは、商業行為であり、不正競争防止法の規制を受けるべきであり、信義則と商業道徳規範に反する方式や手段を用いて他人の取引機会を奪って不正な利益を謀ってはならない。被告が他人の商業標識を検索キーワードとして『広告文に現れないよう設定する』行為は、信義則と商業道徳規範に違反し、原告の正当な権益を侵害しただけでなく、正常なオンライン競争秩序を乱し、また消費者権益及び社会公共利益にも損害を与えたため、『不正競争防止法』第二条第二項に規定する不正競争行為に該当し、上述の法律に基づき規制されるべきである」と判断しました。

上述の二つの判例は、いずれも「信義則」「商業道徳」「事業者・消費者・公共利益への損害」といった観点から分析が行われました。しかし、「不正競争防止法」の一般規定の要件が明らかではなく、解釈の余地が大きいため、他人の商業標識をキーワードとして「広告文に現れないよう設定する」行為が「不正競争防止法」第二条に違反するかどうかについて、これまで実務上の判断が分かれていました。

今回の法改正により、誤認を生じさせない場合は「不正競争防止法」第七条の混同行為に該当しないことが明確になりましたが、「キーワード設定行為を規制する根拠は第七条のみなのか、また、誤認を生じさせていない場合は、正常な市場競争手段と見なされ、もはや第二条の一般規定も適用できないのか」という疑問が生じます。しかし、実務には、第二条の一般規定を補完的に適用する傾向が見られます。最高人民法院が公布した司法解釈と典型判例も、上述の考え方に沿ったものになっています。したがって、「広告文に現れないキーワード設定」については、たとえ結果として混同を生じさせていない場合でも、第二条の適用により不正競争行為として認定される恐れがあリます。

三、日系企業が取りうる対応策

司法判断にばらつきが見られる現状において、企業にとって行動のレッドラインが不明確であり、より慎重な行動をしなければならないと考えられます。企業においては、以下の措置を講じてコンプライアンス管理を強化することが推奨されます。

1. 検索キーワードの慎重な設定:検索結果のフロントエンドページにおいて、ライバルの商業標識の直接使用を厳格に避けるとともに、バックエンドで他人の商業標識をキーワードとして設定することを可能な限り回避すること。

2. 消費者の視点に立ったリスク評価:検索キーワードを検討する際には、一般消費者の視点から考慮し、当該設定により、自社と他社との間の混同を生じさせる可能性を十分に検証すること。

3. 内部コンプライアンス体系の確立:検索キーワードを社内で確認・承認・監視する体制を整備し、商業標識のコンプライアンス審査をマーケティング活動承認のプロセスに組み込むこと。

4. 広告表示の明確化:広告には明確に「広告」という文字を表示し、広告ではない他の検索結果と明確に区別することで、消費者の誤認リスクを低減させること。

5. 積極的な権利主張:商業標識が他人によって検索連動型広告に使用され、自社の利益を害する「ブランド便乗行為」を発見した場合は、公証などの方法により速やかに証拠を固定し、市場監督管理局に通報して取締りを求め、または訴訟を起こすなどの対応が考えられます。

以上

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